2020年05月01日
【新型コロナウイルスに関する労働問題】微熱と咳が続いているという従業員への自宅待機命令
労働問題に詳しい杜若経営法律事務所が公開している資料では、以下のように説明しています。
Q 従業員から、「最近、微熱と咳が続いている」という申し出がありました。この従業員に対して、自宅待機を命じても問題ないですか。自宅待機を命じる場合には、賃金を支払わなければなりませんか。また、従業員が同居する家族に感染者が出た場合にはどうなりますか。
A 会社が自宅待機を命じることは可能です。その従業員が普段通りに仕事をできる健康状態にある場合に会社の判断で自宅待機を命じるときは、会社は少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要があります。従業員が同居する家族に感染者が出た場合、その従業員が保健所の指示や要請により自宅待機をする期間中は、会社は賃金の支払義務はありません。
【ポイント】
○ 社内での感染拡大防止を第一に考えましょう
○ 感染した可能性のある労働者が実際に仕事をできる状態かどうかを検討しましょう
○ 会社の自主的な判断で自宅待機を命令する場合には、賃金の支払が必要なことがあります
[解説]
(1)感染拡大の防止を第一に検討
会社は、社内で働く従業員が健康を損なわないように配慮する義務があります。また、当然のことながら、社内で感染が拡大した場合には、業務の運営に支障が生じます。そのため、社内で新型コロナウイルスが感染拡大しないようにすることを第一に考えなければなりません。微熱と咳が続くなど、新型コロナウイルスの感染が疑われる従業員には出勤を控えてもらうべきです。
(2)実際に普段通りに仕事をできる状態であるか
高熱が出ている場合など、普段通りに仕事をできる健康状態にない場合には、従業員の側でも有給休暇や病気休暇をとって休むことが多いと思われますが、もし、休暇をとらない場合には、自宅待機を命じるべきです。この場合には、仕事をできる状態にはないため、会社は賃金を支払う義務はありません。
(3)普段通りに仕事をできる状態であるものの、感染を疑わせる事情がある場合
他方、微熱や少々の咳があっても、普段通りに仕事をできる健康状態にあって、従業員も出勤しようとする場合に、会社は、社内でのウイルス感染を防ぐため、自宅待機を命じることも可能です。この場合には、仕事ができる状態にあるものの、会社の責任、判断によって従業員が仕事をできないことになりますので、会社は少なくとも休業手当として平均賃金の6割以上の金額を支払う義務がある、というのが従来からの一般的な考え方です
(4)家族に感染者が出た場合
従業員の家族に感染者が出た場合には、その従業員は健康状態に問題がない場合であっても、濃厚接触者として、保健所から、一定の期間、自宅待機をするように要請を受けることになります。この保健所の要請に基づく自宅待機中に在宅勤務で仕事をさせることが可能な場合で、実際に業務をさせた場合には、その間の賃金は発生します。他方で、会社が工夫をしても在宅では業務をさせることができずに従業員が休業せざるを得ない場合、その間、従業員は会社の責任と判断で仕事をできなくなったわけではありません。すなわち、この場合の休業は、会社側の事情に起因したものではなく、会社側で回避可能なものでもないので、会社は賃金を支払う義務はありません。
もっとも、この場合でも、従業員の生活保障や、感染防止のために従業員に自宅待機の自粛要請を守ってもらうために、有給の特別休暇を付与するなどして自宅待機期間中の賃金の一部または全部を補償している企業もあるようです。保健所から自宅待機を求められる期間が解除された後も、会社の判断で、念のため更に数日間の自宅待機を命ずる場合には、賃金を支払う必要があります。