【個別労働紛争】令和2年度の都道府県労働局長 による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の事例をご案内します(その1)

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2021年07月08日

【個別労働紛争】令和2年度の都道府県労働局長 による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の事例をご案内します(その1)

ふさぎ込む人のイラスト(男性会社員)

個別労働紛争解決制度は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度で、「総合労働相談」、都道府県労働局長による「助言・指導」、紛争調整委員会による「あっせん」の3つの方法があります。

 

このうち令和2年度の助言・指導とあっせんの事例を以下でご紹介します。当事務所はあっせん代理人をすることができます

 

事例1 解雇に関する助言・指導
【事案の概要】

申出人は契約期間の定めのあるパート労働者として勤務していたところ、新型コロナウイルス感染症の影響により事業の継続が困難になったとして契約期間が満了する前での解雇を通告された。申出人は、解雇の理由に納得できないので詳細な解雇理由を求めるとともに、少なくとも契約期間満了までの継続雇用を求めたいとして、助言・指導を申し出たもの。

【助言・指導の内容・結果】

①事業主に対し、労働契約法第17条期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由でなければ、その契約期間が満了するまでの間は、労働者を解雇することができない旨を説明した。その上で、申出人に対して解雇に至った経緯を詳細に説明するとともに、少なくとも契約期間満了までの継続雇用を行うべく話し合いを実施するよう助言した。
② 助言に基づき、事業主は、申出人に対して解雇を通告するに至った経緯を詳細に説明するとともに、休業手当を支払い契約期間満了まで継続雇用することとした。

 

事例2 労働条件引き下げに関する助言・指導
【事案の概要】

申出人は、パート労働者として勤務していたところ、事業主から新型コロナウイルス感染症の影響により業務体制の縮小を図るため所定労働日を週5日から週4日に減らす旨を通告されたことから、配置転換等により従来の所定労働日を維持するよう求めたが、不調に終わった結果、申出人の合意なく所定労働日を一方的に減らされた。申出人は、今後の生活のためにも従来通りの労働条件で働き続けたいため事業主と改めて話し合いを行いたいとして、助言・指導を申し出たもの。

【助言・指導の内容・結果】
①事業主に対し、就業規則の変更によらない個々の労働契約の変更については、労働者の合意なく一方的に変更することは労働契約法第8条に抵触する可能性がある旨を説明し、申出人と話し合うよう助言した。
②助言に基づき、紛争当事者間で話し合いが行われ、所定労働日は週4日となったものの、事業主は申出人に対し経済的補償として週5日で勤務した場合と同等の賃金を支払うこととした。

 

事例3 退職勧奨に関する助言・指導
【事案の概要】

申出人は、契約期間の定めのあるパート労働者として勤務していたところ、事業主から勤務態度の不良を理由に契約期間満了前での退職を検討するよう求められたものの(いわゆる退職勧奨)、退職勧奨に至る理由に納得できなかったため退職勧奨の撤回と契約期間満了までの継続雇用を求めたが、不調に終わった。申出人は、今後の生活のためにも解決策を見い出すため事業主と改めて話し合いを行いたいとして助言・指導を申し出たもの。

【助言・指導の内容・結果】
①事業主に対し、労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は違法な権利侵害に当たる場合がある旨を説明し、申出人と話し合うよう助言した。
②助言に基づき、紛争当事者間で話し合いが行われ、事業主は退職勧奨を撤回するとともに、契約期間満了まで継続雇用することとした。

 

事例4 いじめ・嫌がらせに関する助言・指導
【事案の概要】

申出人は介護職員として勤務していたところ、新型コロナワクチンを接種したが、発熱等の副反応が出たことから、2回目の接種は控えることとした。その後、上司から「医師の診断書を提出しない限り接種してもらう。」、「他の労働者や利用者に感染させたらどうするのか、謝罪しろ。」などと暴言を吐かれるとともに、同僚からも陰口を叩かれるなどの嫌がらせを受けたため、精神的な不調が生じている。申出人は、上司や同僚のいじめ・嫌がらせ行為を止めさせるなどの職場環境の改善を求めたいとして、助言・指導を申し出たもの。

【助言・指導の内容・結果】
①事業主に対し、予防接種法により新型コロナワクチンの接種は努力義務であること、いじめ・嫌がらせに関する事案を放置した場合に労働契約法第5条に基づく労働者の安全配慮義務に違反するおそれがあることから、実態を把握の上、対策を講じる必要があり得る旨を助言した。

②助言に基づき、事業主は、当事者からの聴き取りを通じて実態調査を実施した結果、申出人が申し出た事実を確認したことから、会社としていじめ・嫌がらせに該当し得る言動を防止するための職場環境改善に取り組むこととした。

 

事例5 いじめ・嫌がらせに関するあっせん
【事案の概要】

申請人は正社員として勤務していたところ、上司や同僚から威圧的な口調で叱責されたり人格を否定されたりするなどのいじめ・嫌がらせを受けたことが原因で不眠症等を発症したため、職場環境を改善してほしい旨を本社担当者に求めたが、改善されず退職することとなった。申請人は、事業主が職場環境の改善策を講じなかったことによる精神的損害に対して70万円の慰謝料を求めたいとして、あっせんを申請したもの。
【あっせんのポイント・結果】
①あっせん委員が被申請人(事業主)の主張を確認したところ、被申請人は、申請人に対するいじめ・嫌がらせについては否定したものの、紛争の迅速な解決を図る観点から一定額の慰謝料を支払う用意がある旨を申し出た。
②これを受けて、あっせん委員が双方譲歩可能な解決策を調整した結果、慰謝料として50万円を支払うことで合意した。

 

事例6 解雇に関するあっせん
【事案の概要】

申請人は正社員として勤務していたところ、事業主から新型コロナウイルス感染症の影響により取引先から注文が止まったため、申請人に行わせる作業がないとして解雇を通告された。申請人は、自身のみが解雇の対象になっていることに納得できないことと今度の生活のため、解雇の撤回または解雇による経済的損害に対して300万円の補償金を求めたいとして、あっせんを申請したもの。

【あっせんのポイント・結果】
あっせん委員が被申請人(事業主)の主張を確認したところ、被申請人は、①申請人が従事していた業務以外は新型コロナウイルス感染症の影響を受けていないため他の労働者を解雇する必要がないこと、②申請人の能力を踏まえると配置転換は非常に難しいことから、申請人を解雇すること、③解雇に当たって、賃金2か月分に相当する補償金を支払っているとして、申請人が主張する金額の補償金の支払いを拒否した。
これを受けて、あっせん委員が迅速な解決に向け双方譲歩可能な解決策を調整した結果、補償金として200万円を支払うことで合意した。

 

事例7 雇い止めに関するあっせん
【事案の概要】

申請人は契約期間の定めのあるパート労働者として勤務していたところ、事業主から勤務態度や業務遂行能力を理由に雇い止めを通告されたものの、これらの理由に納得できなかったため、雇い止めの撤回を求めたが、拒否された。申請人は、雇い止めの撤回または撤回されない場合の経済的損害に対して150万円の補償金を求めたいとして、あっせんを申請したもの。

【あっせんのポイント・結果】
①あっせん委員が被申請人(事業主)の主張を確認したところ、被申請人は、申請人に対して上司の指示に従わずに業務を進める態度を改めるよう複数回指導してきたが一向に改善せず、これ以上の能力向上が認められないとして、雇い止めを通告するに至ったため、雇い止めの撤回はできないが、紛争の迅速な解決を図る観点から一定額の補償金を支払う用意がある旨を申し出た。
②これを受けて、あっせん委員が双方譲歩可能な解決策を調整した結果、補償金として60万円を支払うことで合意した。

 

事例8 退職勧奨に関するあっせん
【事案の概要】

申請人はパート労働者として勤務していたところ、事業主から新型コロナウイルス感染症の影響により休業するため退職するよう迫られたが、継続雇用を求めたところ、感染症が収束した時点で再雇用する旨の提案を受けたことから、やむなく退職することとした。
申請人は、今後の生活のため、経済的損害に対して15万円の補償金を求めたいとして、あっせんを申請したもの。

【あっせんのポイント・結果】
①あっせん委員が被申請人(事業主)の主張を確認したところ、被申請人は、同感染症が収束するまでの間の自宅待機または収束後に再雇用することを条件に退職するかの提案を行い、申請人が自らの意思で退職したものと認識していたが、紛争の迅速な解決を図る観点から一定額の補償金を支払う用意がある旨を申し出た。
②これを受けて、あっせん委員が双方譲歩可能な解決策を調整した結果、補償金として8万円を支払うことで合意した。

 

 

上記以外の詳細は「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」をご覧ください。